加速する超少子化が始まった。2.5年で10%というハイペースで、これから子どもは減り続ける。子どもの急激な減少という量的変化は、どんな質的変化を生み出すのだろう。少なくとも超少子化は受験を軸とした教育のしくみを変えるに違いない。量の変化は予測可能であるが、質の変化は不連続で不確実で突発的である。加速する超少子化、その先へ。私たちは近未来をどうとらえるべきか。
超少子化という近未来
5年で20%減少、小学生市場の縮小
「加速する超少子化」の波が、いよいよ私たちの民間教育業界を襲う。2026年に生まれた子どもたちの大半は今年小学4年生となる。だから、学習塾の小学生市場は今年から超少子化の影響を受け始めると考えるのが妥当であろう。今後は、2.5年で10%、5年で20%という凄まじいペースで超少子化が進行することとなる。子どもの人口が途中で増えることはない。すなわち、この超少子化は確定している近未来なのである。
3年後の2029年、私国立中学入試(首都圏ではその熱は高く、延べ受験生は減っていない)はどうなるのか。受験生は増えるのか、減るのか。民間教育業界にとって、この動向は将来を考える大きな道標となるに違いない。さらに言えば、今年、来年、再来年の小学生市場の動きを注視すべきだろう。生徒数のみならず、保護者たちの中学受験に対する熱意の変化や志望校の変化に注意すべきだ。
高校入試の易化と通塾率低下:本格的な少子化を前に変わりゆく中学生マーケット
中学生市場の超少子化は2029年に始まる。既に全国の高校入試は相当に易化傾向にあり、多くの高校で受験倍率が1倍を切るという状況にある。巷間では、中学3年生の通塾率低下や早期退塾が増えたとの噂も耳にする。まだ超少子化は始まっていないのに、今の変化は大きな波の前の小さな波であるというのに、マーケットは変化し始めている。
大学サバイバル:9年後に訪れる超少子化と選抜機能の二極化
私立大学の定員割れも既に50%を超えている。国立大学も含め、全国の大学の生き残り競争は激化の一途である。大学入試の易化は、希望すれば誰でも大学に進学できる大学全入時代到来を意味している。限られた超エリート大学や卓越した技術や資格を取得できる大学は、将来も入学選抜を維持できるのかもしれない。しかし大半の大学では、現在の大学入試選抜は無くなる可能性がある。大学入試が超少子化に突入するのは、9年後の2035年である。
現状維持は衰退:激変期を生き抜く学習塾の覚悟
入試というのは大学入試から逆算で考えるべきだと思う。大学入試が変われば、当然に高校入試そして中学入試が変わる。これからの10年で、教育は大きく変わるだろう。しくみも価値観も。当然入試制度も大きな影響を受ける。だから、すべての学習塾はこの影響を避けて未来に進むことはかなわない。
これまでの緩やかな変化の時代は終わり、これからは価値観や社会のしくみの変化も加速する。今日と同じ日が明日もやってくると考えていては、この大波を乗り越えることは難しく、またビジネスチャンスを逃すことにもなる。今まさに「加速する超少子化」が始まろうとしているのである。
量の変化から質の変化へ
少子化がもたらす逆説:市場縮小か、教育競争の激化か
量の変化は、質の変化を発生させる。少子化による子ども人口の減少分だけ民間教育市場が縮小するという予測は、かなり楽観的かもしれない。 少子化は単純に考えれば受験競争を弱くする。そして、受験市場は縮小する。しかし、少子化はより教育による競争を激化させるかもしれない。経済格差の拡大やAIの進化による労働の変化も背景として考えなければならない。少子化により大学の統合が進む一方、近い将来多くの私立大学が消えると言われている。大学は一部のエリート大学と多くの大衆型大学に分化していくと予想されている。現在55%程度で止まっている大学進学率。少子化と大学入試の易化で進学率は100%をめざして上昇していくのか。それとも大学という学歴や学校歴の効能が低下して、逆に下がり始めるのか。
AIの台頭と超少子化:労働・教育を激変させる地殻変動
ホワイトカラーの仕事が人間(大半は大学卒)からAIに移り始めている。世界の先進国で進む少子化。それに起因する労働力不足を補うという観点からも、AIの果たす役割は急激に増大すると考えるのがわかりやすい。一般的には、AIは労働と教育を大きく変えると予想されている。このような社会やテクノロジーの変化と同時に、今「加速する超少子化」が始まろうとしている。この超少子化という量の変化が質の変化を生じさせる可能性は極めて高い。なにしろ5年間で20%減少するのである。
量の変化と質の変化の違いを【表】にまとめた。
量の変化(出生数など) | 質の変化(価値観、学ぶ内容など) | |
|---|---|---|
連続性 | 連続的に変化する | 不連続に変化する |
スピード | 長期的にゆっくり進行する | 短期間で進行する(時に突発的) |
予測・予想 | 予測・予想しやすい | 予測・予想が困難(不確実) |
対応の難しさ | 対応しやすい | 対応しづらい |
社会全体においては、教育市場はこの超少子化の波を最も早く迎えることになる。社会やテクノロジーの変化が私たち民間教育市場に様々な影響を与える。一方、教育や受験の変化は社会やテクノロジーの変化を促す。これから進行する超少子化(量の変化)は確定した未来であるが、教育の役割や価値観の変化(質の変化)は不連続であり不確実なものである。
直観と冒険が生む新しい価値
では、どう行動するか。これまでの競争優位性の強化、計画性に基づいた努力だけで乗り越えるのは難しいと考える。変化が生じてから、変化を感じてからでは遅い。じっくりと対策を練りゆっくりと動くというのでは、「加速する超少子化」が発生させる変化に対応できない。むしろ現在を否定して考える。教育の再定義、学習塾の新しい価値創出という立場をとるべきではないか。本来「ビジネスは冒険である」と考えれば、今一歩踏み出す勇気は決して無謀ではないはずである。根拠よりも直観で動く。そのための量の変化の把握、超少子化の理解なのである。
ビジネスは冒険である
『売上=単価×数量』は売上を理解するための基本的な公式である。学習塾の売上をよりわかりやすくするために通塾率を組み込んでみると、『売上=単価×子ども人口×通塾率』という公式を作ることができる。

「緩やかな少子化」を生き抜いた、これまでの学習塾の生存戦略
「緩やかな少子化」のときは、授業料の値上げや個別指導の採用などで単価を上げた。また、高校生指導の導入はある意味で子ども人口を増やす対策とも考えられる。中学入試が全国に拡がったり、小学生の英語指導が始まったりして、通塾率も上昇した。子ども人口は1989年から緩やかに減少してきたのであるが、これらの対策で学習塾市場は成長し現在も横ばいを維持している。
今始まろうとしている「加速する超少子化」。これまでの対策が通用するだろうか。経済格差の拡大などの影響もあり、これまで通りの授業料値上げは困難ではないか。受験の易化を受けて通塾率も下がるかもしれない。そして、子ども人口は急速に減少する。私たちは、超少子化という量の変化の波をまもなく受ける。さらに量の変化が引き起こす質の変化の波を併せて受けることになる。
数値が示す未来:10年後の市場縮小シミュレーション
中学生の人数は、およそ10年後には現状の7割に減少する。そしてその4年後には6割にまで減少する。『売上=単価×子ども人口×通塾率』という公式に、この数値を当てはめて簡単なシミュレーションを行った。その結果を【表】で示す。
ケース1を現状とする。ケース2では、子ども人口が70%に、通塾率が80%に下がると仮定した。すると、売上は現在の56%にまで減少する。その減少に対して、単価をどれほど上げれば売上が現状維持できるか。ケース3で示したように現在のおよそ1.8倍の単価アップが必要である。中学生の人数が60%になり、併せて通塾率も70%に下がったケース4ではどうか。売上の維持には、2.4倍の単価アップが必要となる。
単価 | 子ども人口 | 通塾率 | 売上 | |
|---|---|---|---|---|
ケース1 | 100% | 100% | 100% | 100% |
ケース2 | 100% | 70% | 80% | 56% |
ケース3 | 179% | 70% | 80% | 100% |
ケース4 | 238% | 60% | 70% | 100% |
もちろん通塾率がこれほどに下がるとは限らない。しかし、学習塾の中学生市場が今も受験で成立しているのは確かである。その受験が揺らいでいる。子どもたちはどんな目的で学習塾に通うのか。通い続けるのか。新しい時代、社会が求める学力とは何か。社会が求める能力や技術とは何か。学ぶことの意味や価値も大きく変わる可能性が高い。
あくまでもシミュレーションではあるが、子ども人口の減少と通塾率低下に対して、単価を上げることがこれまで同様に可能なのか。単価2倍の方策はあるのか。コストの大胆な削減、新しい通塾目的の創出、シェア競争や価格競争からの脱出、ほかにどんな打つべき手があるだろう。模範解答ではない新しい答え探し。これからの教育ビジネスは冒険の旅かもしれない。
