弊社開催のOLECO SUMMIT等で行ってきた講演を軸に、本記事シリーズではより丁寧により詳しく、教育の近未来展望に大胆にアブーローチしたいと考えています。教育社会学的な視点とマーケティング的考察をクロスさせて、これからの学びとは何か、民間教育業界の新たな価値とは何かについて、スタディラボらしい未来図を示すことができればと願っています。
株式会社スタディラボ取締役 横田保美
新年度の塾生募集が大変との声を聞く。受験生の講習受講が低下してきたとの嘆きも聞く。その原因はすべて少子化。果たしてそうだろうか。少子化の大波はまだ襲ってきていない。民間教育業界は今その入り口に立ったばかりで、加速する少子化の大波はこれからやってくる。それも確実に、避けようがなく。
加速する超少子化
ついに出生数が70万人を割る。2025年12月、新聞各紙は2025年の出生数が過去最少の66.5万になると報じた。日本総合研究所が2025年11月までに公表された人口動態統計をもとに試算し、「2025年の出生数は前年比▼3.0%の66.5万人」と発表したのだ。当然ながら出生数は統計のある1899年以降で過去最少であり、国立社会保障・人口問題研究所が23年に公表した将来推計人口を大きく下回る。出生数66万人は2041年と見込んでいたので、ここ数年の出生数減少は予想をはるかに超えるペースというべきだろう。
[出典:日本総合研究所 2025年の出生数は66.5万人、婚姻数は48.5万組の見通し]
超少子化の実態
22年から24年の出生数前年比は▼5%超であった。これと比較すれば、25年の▼3.0%という数値は少子化が相当にペースダウンしたと考えることもできる。しかし、2年で1割の減少が3年で1割減少のペースに変わっただけで、加速する超少子化の流れそのものに大きな変化はない。21年の出生数81.2万人からわずか4年間でほぼ2割の減少、これが超少子化の実態である。
日本の出生数推移
私のセミナーを聴いていただいた方々には幾度も示してきたデータではあるが、戦後の日本の出生数推移を次のグラフで再度確認しておきたい。

第2次世界大戦後の第一次ベビーブームで生まれた世代は「団塊の世代」と呼ばれ、戦後の日本の社会変化や経済成長に大きな影響を与えた。47年から49年のわずか3年間に合計806万人(毎年およそ268万人)が生れた。高度経済成長の60年代、人口の都市集中化と同時にサラリーマン社会が出現する。大学進学競争の激化は「受験戦争」という言葉を生み出した。その後出生数は急激に減少するが61年の頃から再び増加に転じ、第2次ベビーブーム(71年~74年、ピーク73年の出生数は209万人)を迎える。
70年代の学習塾急増は「雨後の筍」のごとくと喧伝された。80年代に入ると、都市部では私立中学入試が盛んになり、そして90年代には新しい学習塾の形態として個別指導塾が全国に拡がった。
第2次ベビーブームの後出生数は89年までは前年比▼2.5%と急減するが、90年から緩やかな減少に変わり、この緩やかな減少期が2015年までと長く続く。
「緩やかな少子化」と「超少子化」
1989年から2015年までの26年間の出生数は前年比▼0.8%と、極めて緩やかな減少ペース(私はこれを「緩やかな少子化」と呼ぶ)であるが、2016年から現在までは前年比▼4.0%以上のハイペースで減少を加速(私はこれを「加速する超少子化」と呼ぶ)している。なお、2016年は出生数が戦後初めて100万人を割り込んだ年でもある。出生数の急激な現象を次の図で示す。青の直線は「緩やかな少子化」の推移、赤の直線は2016年以降の「加速する超少子化」の推移を表しているが、その傾きは突如急勾配なものに変化していることは一目瞭然であろう。

「高校入試や大学入試が易しくなって、生徒募集にも影響が出てきた」との声を最近しばしば耳にする。塾生が集まりにくい。受験生の講習参加率が低下してきた。「それらの原因は少子化」との声だ。しかし、今私たちの学習塾業界が経験している少子化は、出生数が前年比▼0.8%の「緩やかな少子化」である。つまりまだ少子化は始まっていない。そう考えるべきだろう。
加速する超少子化はいつからか
2016年に始まった「加速する超少子化」。2016年に生まれた子どもたちのほとんどは、今年小学4年生に進級する(早生まれの子どもたちは小学5年生)。通塾率から考えて、全国的な学習塾の小学生市場は小学4年生から6年生で構成されていると想定できるが、まさに「加速する超少子化」の大波がこの2026年小学生市場に到来する。超少子化がいよいよ始まろうとしている。
「緩やかな少子化」と「加速する超少子化」の違い
これまでの「緩やかな少子化」と「加速する超少子化」の違いを、【表】に整理した。「緩やかな少子化」が1989年から2015年まで26年間も続いたことに注目したい。前年比の減少率は▼0.8%と極めて低い。学習塾業界はこの「緩やかな少子化」に慣れてしまった危険性がある。単価のアップや講習による売上増、個別指導の導入、高校生指導の採用などにより、学習塾は売上を確保さらには伸ばして、これまでの少子化を乗り越えてきた。小規模の学習塾の閉鎖は、中堅や大手の学習塾の増収増益にも貢献してきたものと思われる。
2016年から始まった「加速する超少子化」は前年比の減少率が▼4.0%と極めて高い。ほぼ5年間で20%も出生率が減少する。この大波をこれまでと同じ対策で乗り越えることは可能だろうか。中小規模の学習塾の閉鎖は加速するだろう。だからと言って、大手が教室増設により塾生を増やし売上を伸ばしていくとは予想しづらい。
緩やかな少子化 | 加速する超少子化 | |
|---|---|---|
期間 | 1989年~2015年 | 2016年~2025年 |
前年比の減少率 | ▼0.8% | ▼4.0% |
減少のペース | 26年かけて20%減少 | 5年で20%減少 |
学習塾市場の成長を生み出してきたとも言われている団塊ジュニア世代。そのピークの出生数203万人と比較すれば、2025年の66.5万人はわずか33%である。2015年の出生数100万5千人と比べてもおよそ66%である。私たちはこれから、経験したことのない新しい時代を迎えることになる。
